英語力と和訳について2006年04月16日 21:02

昨日の投稿では、『和訳先渡し授業の試み』がつい最近発行されたようなニュアンスで書きましたが、実際には2004年8月初版でした。私自身が読んだのが今春だったので、つい最近出たのかと勘違いしていました。

さて、自分が英語を、そして後年他の外国語を、学んだときの体験を振り返ってみると、少なくとも「和訳ができること」=「外国語ができること」とは思えません。最初に英語を学んだ13,4歳の頃、学校の授業より、基礎英語・続基礎英語でのほうが、身に付いていたように思えます。テキストには当然、対訳が載っていたので、自分で本文を訳すことは一切ありませんでした。番組放送中の15分または20分以外はテキストを見たりとかノートに写したりとかはしていません。それでも明らかに英語の力はつきました。脳が若かったということもあるかもしれませんが、少なくとも和訳をしなかったことで英語が身に付かなかった、あるいは放送を聞いていても効果がなかったとは感じません。

高校に入ってリーダーの授業が始まると、必要に迫られてノートに和訳を書き始めました。これをやっているときに気づいたことがいくつかあります。1つは、何を言っているか分かっているのに、それを日本語で表現できないということです。例えば、..... to which degree....のような文は言っている(=書いてある)ことは分かりますが、関係代名詞の典型的な訳し方である「後ろから前の先行詞に訳し上げる」ようにはできなかった覚えがあります。

2つ目は、in ....は「....において、....における」と訳せばだいたい通じてしまうものだなぁという「発見」です。何が言いたいかというと、inという前置詞の種々の意味を覚えなくとも、上記のような1対1の対応関係でかなりの文脈をカバーできてしまうということでした。今にして思えば、これは英語力の問題ではなく、日本語に翻訳する能力の問題のような気がします。

3つ目は、3年間こんな感じで和訳をノートに書いているうちに、日本語の表現力が上達したと実感したことです。英文を読んで、頭の中にある意味(この段階では何語にもなっていない)を日本語に固定する作業を続けたわけですから、この過程は詩人が、ある感動(この時点では意識のみで、特定の言語になっていない)を言葉にとどめるのと基本的には同じだと思います。そんなことを3年間も続ければ、どんな人でも日本語の表現力は向上すると思います。

4つ目は、学年が上がるにつれて文法構造が複雑になればなるほど、数学的な能力が要求される気がしたことです。上掲書でいうところの「解読」技術が必要とされていたということです。この時点では生成文法の樹形図は知りませんでしたが、感覚的にはそれに近いものを無意識のうちに感じていました。現在この仕事について生徒を見ていると、やはり規則を適用する能力というか、一般式を具体例に応用する能力が長けている生徒は英語が出来るような気がします。

以上のようなことから、漠然と、和訳することは英語力とは違う部分の能力が要求されると感じていました。高校生当時に感じていたのは、今でこそ基礎英語が中学3年分用意されていますが、もしあのとき1年ごとに高校3年分まで基礎英語のような講座があれば、さらに英語の能力、特にlisteningやspeaking能力が質的に向上するのではないか、ということでした。(結局当時は東後勝明先生のラジオ英語会話を聞いていました。)

おそらく英語学習のベテランであるみなさんも、多かれ少なかれ同じような感覚を持ったことがあると思いますが、いかがでしょうか。

コメント

_ ゼン ― 2006年04月19日 09:00

訳先渡し高知県大会のビデオは孫コピーですが持っています。誰かに貸してそのまま返ってきてませんけど。訳先渡しは私も取り入れてやっています。内容を理解している分をわざわざ訳すほど無駄なことはありませんからね。
 しかし、今進学指導をしていると国公立大学の2次試験で下線部を訳せ、というような問題に対応する力は、おっしゃるとおり英語の能力以上に文章構成力や数学的思考力も必要とされると痛感しています。結局入学してくる生徒には、国数英をしっかり勉強しなさい、と言っています。
 今年こそ久しぶりにAITCに行こうと考えているゼンでした。(8月中旬に同級会がありそのあたりに上京します!)

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